住宅ローンが払えない管理人です。
共働き夫婦が家を購入する場合、最近は「ペアローン」を使うケースが増えている。だがそれで大失敗するケースも多い(写真:Taka / PIXTA)
「ちょっと高いかもしれないが、どうせなら家賃を払うより都心にマンションが欲しい」――。低金利と「10年間の住宅ローン減税」を背景に、ファイナンシャルプランナーの筆者への、住宅購入希望者の相談は依然かなり多い状況が続いています。
不動産の専門家の間では「今、都心のマンションを買うのは割高」とも言われています。しかし、年収に対して居住費が重くのしかかる若い世代は、「変動金利なら、家賃と同程度でマイホームが持てる!」という発想になりやすいのです。
ところが、実は「せっかく住宅を購入したのに、ローンが支払えない!」「ほかの事情が絡んでマンションを手放すことになった!」というケースが増えています。しかもこれは世帯収入に関係がありません。高所得世帯でもローンが払えないという方は、増える傾向にあります。
共働き夫婦に人気の「ペアローン」の「落とし穴」とは?
それでは、いったい何に気をつけて住宅ローンを組むべきでしょうか。昨年、お子さんが生まれたタイミングで5400万円のマンションを購入した「共働き20代夫婦」のケースを参考に考えてみましょう(なお住宅ローンの金利タイプの注意点については、「共働き夫婦はマンション購入で失敗しやすい」もぜひ参考にしてください)。
相談に見えたのは飯村大輝さん(27歳・会社員・仮名)と妻の和花さん(26歳・会社員・同)です。5400万円のマンションを購入したものの、今後必要になる子どもの教育費や老後資金のことまで考えると「無理な買い物をしてしまったのではないか」と不安になったということでした。
飯村さんご夫婦は、それぞれが債務者となる「ペアローン」を組みました。そうです。収入がまだ低い若い世代でも、共働き世帯なら、こうすればマイホームを持つことが比較的容易にできるのです。
夫婦2人でローンを組むと、それぞれが「ローン減税」を受けられるというメリットがあります。また、1人よりも借入額を増やせます。そのため、物件価格の上昇に伴って、利用者は年々増えています。
しかし、当然ながら、借入額を大きくすると、返済には「より綿密な計画」が必要になります。まずはマネー相談でも質問が多い、「住宅ローン減税」について、ポイントを押さえておきましょう。
ローン残高の1%が自動的に減税されるわけではない
住宅ローン減税は、ひと言で言えば「家を買うと税金が安くなる」という制度です。そのため、確かにマイホーム購入の背中を押してくれる制度と言えます。実際、飯村さんご夫妻もこの制度に魅力を感じて購入を決めたそうです。
減税されるのは、購入時だけではありません。リフォームなどのために住宅ローンを借りた人でも受けることができます。10年間、年末のローン残高の1%が所得税から控除されます。制度の内容を詳しく見てみましょう。
控除の対象となる借入額は、上限4000万円(長期優良住宅は5000万円)です。所得税からの控除額は上限10年間で400万円(同500万円)です〔2021年12月までは消費税(8%または10%)を支払って住宅購入したりした場合に限る〕。住宅ローン減税による控除額を、その年の所得税額から控除しきれない場合は、その差額分を翌年度の「住民税」から控除できます(上限額:年13.65万円)。利用できる要件などは国土交通省のサイトをご覧ください。
さて、夫婦ペアローンを組んだ飯村さんの場合はどうでしょうか。もちろん、それぞれがこの住宅ローン減税を受けることができます。5400万円のうち頭金900万円を払ったので、借入額は合計で4500万円。内訳は大輝さんが2860万円、和花さんが1640万円です。
年末時点でのローン残高の1%が減税になります。しかし、実際に控除されるのは、自分が支払った所得税分です。それで控除しきれない場合は、翌年の住民税の中からの控除になります。
飯村さん夫婦の場合、大輝さんが払った所得税額は約12万5000円、和花さんは約8万円ですので全額が控除されました。さらに、引ききれなかった分は翌年の住民税から差し引かれます。結局、住民税も安くなったのですが、フタを開けてみたら、大輝さんの住宅ローン減税額は約19万4000円、和花さんは約12万5000円でした。年末時点でのローン残高は4000万円以上あったのですが、このように「ローン残高が4000万円以上あっても上限いっぱいの40万円が控除されるわけではない」ことに注意しましょう。
では、改めて飯村家の家計を考えてみます。ご夫妻の借入合計額は4500万円で、固定金利1.06%、借入期間は35年、夫と妻、6:4の割合で借り入れをしています。毎年の返済額は合計153万円です。現在の家計の手取り年収は和花さんが時短勤務のため約491万円。返済割合は年収の約31%ということになります。
ローンを支払いながら、どれだけ貯蓄できるか
これを多いと見るかどうかは、「住宅ローンを支払いながらいかに貯蓄ができるか」で考えるべきでしょう。いつものように、「人生設計の基本公式」を使って、飯村さんご夫妻の「必要貯蓄率」を求めてみましょう。
人生設計の基本公式とは、ひと言で言えば「老後いくらで生活をしたいか」を考えて、それを実現するためには「今後手取り年収の何割を貯めるべきか(=必要貯蓄率)を計算するもの」です。年齢などは弾力的に設定できますし、いわゆるフルタイムワークなど第一線を退いてからも収入がある場合などにも対応しています。誰でも3分で計算できますので、詳しくは過去の記事「あなたは65歳までにいくら貯めればいいのか」をご覧ください。初めての読者の方は、このままケーススタディを眺めつつ、読み進めてください。
飯村大輝さん(27歳)和花さん(26歳)夫婦の家計
子ども1人(0歳)
家計の今後の平均手取り年収(Y)900万円
(現在の手取り年収ではなく、残りの現役時代の年数も考え、これからもらえそうな生涯の手取り年収の平均を考えて記入します)
老後生活比率(x)0.5倍(65歳以降、現役時代の何割程度の生活水準で暮らしたいかを設定します。飯村さんの場合、住宅ローンはリタイアまでに完済しますし、子どもさんも成人していることから、支出は大きく減るとして、50%とします)
年金額(P)270万円(夫婦の合計額、手取り年収の3割として計算)
現在資産額(A)-450万円(今保有している貯金額は150万円ですが、教育費を600万円と想定してマイナスに。一時退職金も出る予定ですが、現時点では加算していません)
現役年数(a)38年(65歳まで働くとして計算)
老後年数(b)35年(20代の飯村さんは、65歳以降100歳まで生きると想定して35年で計算)
飯村家の「必要貯蓄率」は、「13.51%」です。先ほどの条件を計算式に当てはめると、以下のようになります。
この必要貯蓄率を守っていけば、老後生活費は毎月約32万4000円確保できる計算です。
出産や育児による妻の収入減に注意
さて、現在、和花さんは時短勤務中ですので、家計の手取り年収は通常より少なく、約491万円です。必要貯蓄率13.51%を掛けると、年間の必要貯蓄額は約66万3000円となります。毎月5万5000円を貯蓄していかなければなりません。固定費の住宅ローンの毎年の返済額153万円、保育園代約40万円、保険料6万円を差し引くと、残りの毎月の生活費は約18万8000円です。そこから、毎月のマンション管理費と修繕積立費、光熱費、通信費、食費を捻出していきます。なかなか厳しいですが、やれなくもないという金額です。しかし、余裕はほとんどありません。今後の必要な出費等に備えて、より堅実に貯蓄を増やしていく必要があります。
飯村さんは、今後のことを深く考えず、家を買ってしまったと心配していますが、夫婦ペアローンを組むときに最も考慮しなければならないのは、主に「出産や育児による妻の収入減(夫の場合もある)」なのです。
つまり、飯村家は、今が最も厳しい状況ということになります。厳しい現実ではありますが、貯蓄率を守れる状況ならば、「第1関門」はどうにか通過と考えてもいいでしょう。和花さんが、なるべく早く通常勤務に戻り、仕事を辞めないことが、家計を維持していくポイントとなります。
実は、飯村夫妻は、いくつかの幸運に恵まれました。1つは、現在の低金利です。2つ目は両方の親からの援助で、物件価格の約2割を頭金にできたことです。さらに、駅から6分という比較的好立地に家を持てたこと、そして、まだ20代ということで、リタイアまでにローン完済を見込めることも好材料です。
新築購入&自己資金2割未満なら売却時はピンチ
一般的に、新築物件を買う場合、買った途端に物件価格が2割下がるといわれています。新築物件には「新築プレミアム」といわれる本来の価格よりも2割程度上積みされた価格が設定されているためです。そのため、自己資金が2割未満であれば、もし売却することになった場合、ローンを完済できない可能性が高いのです。
ローンを組むとき、多くの人が「今の家賃分ならローン返済に充てられる」など、目先の事情だけを考えて借り入れ可能額いっぱいまでのローン契約をしてしまいがちです。しかし重要なのは、将来「何らかの事情で収入減になった場合に支払いができるか」、あるいは家を手放さなければならなくなった場合を想定することです。そのうえで余裕ある返済計画を立てる必要があるのです。
飯村家には心配ないことですが、「夫婦ペアローン」を組んで、途中で婚姻関係を解消しなければならないということだって、ないとは言い切れません。実際に、離婚による債務形態変更の相談は増加傾向といわれます。その場合、通常は「売却してローンを完済する」がルールです。このとき、先の「買った瞬間、新築プレミアム分2割価格は低下する」が響いてくるのです。
中古の場合はハードルが低くなるかもしれませんが、やはり「物件価格の2割程度+諸費用分」の自己資金(頭金)を用意してから、住宅購入をすることをお勧めします。また、貸し手である銀行も、一定以上の自己資金を債務不履行回避の1つの目安として評価しているようです。たとえば、ソニー銀行では、物件価格の10%以上でも自己資金があると、金利を0.05%引き下げてくれるなどの優遇があります。
子どもが生まれ、新築の家も購入した飯村さん夫妻。今後、ライフプランの変更があるごとに、「必要貯蓄率」を再計算し、着実に貯蓄を積み上げていってください。もちろんおカネの置き場所としては、ぜひiDeCo(個人型確定拠出年金)や、つみたてNISA(少額投資非課税制度)を優先的に使い、おカネにも働いてもらいましょう。